裕之 安井
2018 掲載
更新日:2021年10月28日

帰還6 DOORbooksが毎月発行している本に、
「コロナ禍に何を思ったか」について
僕の書いた文章を掲載して頂きました。
帰還という本は、高橋さんが短編小説と
エッセイを綴る内容なのですが、
6月号では、高橋さんの身近にいる方たちに
執筆を依頼し、付録という形で掲載されています。
執筆者(帰還6に掲載された順)
山本美文(木工家 岡山市)
安井裕之(建築家 松江市)
小倉健太郎(宮内舎代表 雲南市)
安部太一(陶芸家 松江市)
斎藤陽子(CALMS主催者 米子市)
ご興味ある方は、下記へお問合せ下さい。
DOOR BOOK STORE
https://www.instagram.com/doorst.margaret/?hl=ja
帰還6 Platz 読者の広場に掲載された文章を記します。
顔が穏やかになったね、と妻に言われたのは何日だっけ?
今年の初めではなく、コロナで自粛生活を送っている5月の半ばだった気がする。
「えっ」と不意をつかれ、あとから少し嬉しい気持ちになった。
いつも、あなたは顔が恐いと妻や友人Fから言われ続けていたから。
一体なんで穏やかな顔になったんだろう?
思い当たる節は、自粛生活後に始めた3つのこと。
1つは髭を伸ばし続けたこと。ウィルスが口に入らないよう、口髭や顎鬚が防いでくれると半ば信じたから。
2つ目は、利き手ではない左手で、ご飯を食べられるようになったこと。
散歩と一緒で脳を活性化してアイディアが出やすくなるそうだ。
でも散歩は止めてしまった。
3つ目。仕事をしていない。
いや、厳密に言えば仕事はしていた。
ただこの仕事が再開されるのか、このまま音沙汰もなく1年が経つじゃないだろうか、いや、実はそうなって欲しいと思っていた。
このまま世界の流れが止まり、ただウィルスに怯えながら何もせずに1年を過ごす。
想像しただけで、何だかほっとして、そうならないかなーと思い続けていた。
こう書くと、本当に何もしてない人だと思われそうなので、書く。
実際は気のままに仕事はしていた。
敷地模型を作ったり、既存図面をCAD化したり。
ただし、気分が乗った時に進める感じで、1日2時間の時もあれば、6時間の時もあった。
それでも1日は早かった。
何をしていたかといえば、コロナに関する情報を集めたり、子どもの勉強を見ながら本を読んだり、子どもと一緒に散歩に出たりした。手紙も書くようになったし、大切な人と電話をし、会話する大切さをあらためて感じたりもした。
仕事は辛い。
いつもその事を思うと、胸が締め付けられる。
大雨や地震、台風が来ると今まで携わった住宅が頭に浮かぶ。
極度の心配性だと思うし、そんなの気にしてられないって言う人もいるだろう。
でも、どうしても頭に浮かんでしまう。
そして嵐が過ぎ去るのを待とうとようやく納得する。
今更、どうしようもできないからだ。
その時々でベストを尽くしたじゃないか!と自分自身に確認しながら、寝てしまう。
振り返ると、仕事を忙しくし過ぎていたのかもしれない。
周りには、お前は仕事をしなさ過ぎと言われながらも、自分なりに切羽詰まった状態だったのだろう。
気が焦り、早くこなそうと無意識に動いていたのかもしれない。
打合せを見合わせていた仕事が再開し始めた。
また恐い顔の僕に戻るのだろうか?
それとも上手く受け入れ、違う顔に変わっていくのだろうか?
妻の表情や言葉に注目したい。
早速、髭は全て剃った。