長女・蒼が3月に中学を卒業し、今日から津和野高校へ進学する。
中学生活の中で、松江を出たい思いが強くなったのだろう。
中学3年の春には進学したい高校を2校に絞り、自分で決めた高校を受験した。
金銭的な事を考えれば、松江市内の高校に通ってくれた方がありがたい。
金銭的な不安はあるけど、僕らの覚悟が必要な話でもあった。
津和野は僕にとっても思い出深い地だ。
広島工業大学大学院1年の時、ある事をきっかけに研究室を飛び出した。
そのまま歩いて駅へ向かった。
行先は決めてなくて、山口へでも行くかと思い、鈍行列車に乗った。
山口を周り、萩に辿り着き、
松江からは行く機会のない津和野が近いと分かり、
憧れだった津和野へ進路を向けた。
街中をぶらぶら歩き、城址にも行ったし、
当時の津和野高校の吹奏楽部が、雑木林の中で練習していて
その姿に惹かれ写真を撮った記憶がある。
安野光雅を知ったのも、この時で、
広島へ戻ってから友人に貰った安野光雅の絵本は
我が子に受け継がれた。
当時、津和野にオーベルジュが出来て、興味があったけど
とてもじゃないけど行けなかった。
でも今回、蒼の進学をきっかけに
家族で泊まる事ができた。
憧れだったオーベルジュへ家族と泊まることが出来たなんて。
20年前の自分は、信じられただろうか。
僕は入学式には参加しない。
松江で次女が一人になるからだ。
津和野は松江から車で約4時間ちょっと。
制服など事前準備の為、昨日、出発していった。
その日僕は、今年の晩夏から始まる工事の打合せで
先に出なければならなかった。
蒼に何て声を掛ければ良いのか考えると、こみあげてくるものがある。
ぐっと堪え、「いつでも帰っておいで。父さんは仕事に行く」と言って車に乗った。
車を走らせる。
家からどんどん離れていく。
目的地へ近づくにつれ、涙が止まらなくなった。
「あの子なら大丈夫、あの子なら大丈夫」と、つぶやく。
自分に言い聞かせるために。
意識しないといつの日か忘れてしまうこの日。
休みになると帰ってきて、また家を出ていく。
この繰り返しが当たり前になり、感情も慣れていくだろうと想像する。
僕はこの日を忘れたくない、と誓う。
自分に言い聞かせるために。
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