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2052 水のない住宅

執筆者の写真: 裕之 安井裕之 安井

内装に木を張って欲しいと要望された時

どうやって断ろうかと考えてしまった。


彼は陶芸家で、母屋の離れに工房を構えている。

その内装も自分で張った木板が張られている。


家の周辺は山に囲まれ、義父が植えた果樹が豊富に

実をつけている。家族で野菜も育てている。

山水もある環境。


例えば、壁に杉板を張るとする。

節は避けたい。それでも白いところと赤いところが

所々に見えてくるだろう。

統一感はない。


床材には、杉をよく使う。

足元が踏んで気持ちいいし、冬も温かい。

白身も赤身も床なら気にならない。


でも壁に張ると、白身と赤身が気になるし

木を積み重ねて張ると、ログハウス風になるのが、嫌だ。


木を壁に張っても、気にならない方法があるだろうか?

考えているうちに、藤森照信の建築を思い出した。


ニラハウスで、木と木の間に漆喰を詰めていた。

白いラインと平行にカットされていない木のランダムさが特徴だ。


打合せに通っているなかで、

いつも玄関先に置いてある濾した土(大きな鉢に入った)が

いくつも置いてある。

聞けば、裏山から取ってきた土に、島根産の土を混ぜて

陶芸用の土を作っているそうだ。

信楽なら、地元の土で陶器を焼けるだろう。

ここらでは、敷地内にある土を使って、陶器にしようと思う人は皆無だろう。

その事に興味を惹かれ、あるお願いをした。


内装に杉板ではなく、ヒノキ板を張りたい。

その隙間に陶芸用の土(陶土)を詰めて貰えませんか。



身近な材料で、建築を作る。

ずっと考え続けていた。

アフリカの日干し煉瓦の家。農家の土壁。

全てそこにある材料で作られた家だ。

虫や動物の巣も同じで、そこにある材料で作る。


課題はたくさんあった。

まずはヒノキ板のコーティング。

木は灰汁を吸ってしまう。

防止策は、蜜蝋ワックスを塗る事で解決した。


陶土をそのまま入れても 焼いて締めるわけではないので

ぽろぽろと落ちてくるだろうと陶芸家に言われた。

土壁がぽろぽろ落ちるのは、クレームが多い。

掃除も大変。

漆喰は、石灰が入っているので、固まりやすいし

粘りもあるので、ぽろぽろする事もない。

さすが、藤森照信。


陶土にある材料を加えた。(漆喰は高いので無理)

ぽろぽろは無くなった。


板と板の隙間は、19mmで

そのまま真四角な隙間に土を入れても

ボーダー状に落ちる可能性も指摘された。

いくら考えても誰もやった事がないことで、

想像もつかない。

サンプルを作って実験を繰り返すが、

解決策は見えなかった。


ある時、電気工事の年配者に相談してみた。


年配者は、経験も豊富で、その分知恵もある。

「そんな仕事は止めた方がいい」って注意されつつも

ヒノキ板を斜めにカットして、

隙間の形を台形にする方法を教えてくれた。


奥にいくほど、末広がりになるので、陶土を詰めても

ボーダーごと落ちることはない。


知恵と経験。

関係ない職業の人に相談する事。

とても大事な事。



陶土が詰められていく。


ヒノキ板が張られた時点でも感動し、

もう板張りのままで良かったんじゃね!?と

一瞬どころか、何度も後悔したけど、

陶土が入った壁を見て、全てがふっとんだ。


ヒノキ板ばかりだと堅い印象だった壁に

柔らかさが含まれる。

ヒノキ板との調和も良い。

横の線も気にならない。

何ならずっと陶土を見ていられる。

陶土に微かに残る陶芸家の指跡。

僅かな凹凸が、陰影によって表情を変える。


自然素材のもつ温かさに

柔らかさを含んだ空間ができた。




「最近の住宅には、水がありませんよね。」

建築家の宇田川さんに言われた一言が 心に沈殿していく。



水を含んだ材料は、外も中も使われなくなった。

水は、他の材料との取り合いが難しい。

他の材料が水を吸ってシミや変形をもたらす。

乾くまで時間もかかるし、

乾いた材料しか、今は使われなくなってしまった。


そこをもう一度、見つめなおさせてくれた言葉だった。



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