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執筆者の写真裕之 安井

2084 ボール送りリレー




ボール送りリレー。

男女8名で並び、先頭から股覗きをするように

ボールを後ろへ転がす。

最後尾はそのボールを取り、前へ駆け出す。

30m先に折り返しのポールがあり、そこを回って戻り

チームの先頭へ並ぶ。

そして、股を通して後ろへボールを転がす。

45歳以上が出場権をもつ町民運動会の競技。


第一走者だった僕は、ボールを受け取るとすかさず駆け

他チームが折り返しポールを回る頃には、先頭に戻っていた。


背が高い分、歩幅の差で有利だったみたいで

次女に「大股走行」と揶揄された。



12年前、僕らは独立を機に育った場所へ帰ってきた。


自分の同級生や一緒に学校へ歩いた子たちは、もういない。

子どもの頃から住んでいた年上の方は

世代が違うので誰だか分からない、そんな状態だった。


決して、ホーム感はなく、

竜宮城から帰ってきた浦島太郎に近い気持ちだったと思う。


高校を卒業して13年が経っていた。



そんな時に、

気さくに声を掛けてくれた人がいた。


僕は、彼と一緒に過ごしたい!と

いろいろな競技に参加するようになった。

そのお陰か

徐々に地域のコミュニティへ入ることができるようになった。


彼はいつも、新しい住民が入ってくると

自分から声を掛ける。

そのことに気付いたのは、だいぶ経ってからだ。



昨年10月。

彼から電話を貰った。

引っ越すとのこと。


話を聞けば、

もともと彼の実家へ帰る前提で結婚し

子どもが小さい最中は

妻の実家近くで暮らした方が良いだろうと思い、

この地域に住んでいたこと。


子どもの進学するタイミングで

常に引っ越すタイミングを探していたこと。


そして、彼も

地区外から引っ越してきた人たちと同じ経験をしていた。


彼の声掛けから数年が経ち、

地区外から引越してきた人たちが

だんだんと地区の中心になって

周りを巻き込みながら、面白い企画を考えはじめている。


先月も、そのメンバーたちと一緒に

彼の送別会を企画した。


本人は、上座に座って送られるのは嫌だ、

自分が楽しくないと嫌だ、

と駄々をこね、

本人の希望でバーベキューをした。


買い出しも炭おこしも

準備全てにおいて

彼が参加したがり

しんみりした送別会にはさせなかった。


買い出しからすでに楽しそうだった。

まるで本人ではない誰かの送別会のように。


16:30からはじめたバーベキューも

20:00前には会場を集会所内へ移し

23:00には解散となった。


大雨の中、

家族が迎えにきてくれたのにも関わらず

彼は、知人を送り届けたついでに

なぜか戻ってきた。


僕らは、掃除機を掛け

台を吹き、ごみを分別していたところだった。


ふと見ると、

6年前に地域祭りで撮影した

集合写真のパネルを

彼が見上げている。


彼の子どもが小学生時代の姿で写っている。

他の子も保護者も まだ若い。

今はもう亡くなった方もこちらを見ている。

そんな写真。


僕は、そんな彼を後ろから見つめる。

彼の背中を忘れることができない。

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